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インドにて4

こうして数週間、日本人の二人連れの女性と2等列車やバスで旅をし、僕たちは、首都のニューデリーへやってきた。


この先はお互いに行く先が違うのでこの町で彼女たちとはお別れだ。僕の目的地はまず、チベット方面だった。

チベットに直接入れないので、国境近くのラダック地方に向かう予定で国内線の航空券を探すことにした。


取り敢えずニューデリーの旅行会社をしらみつぶしに回って空席を探したのだが、どうにも見つからない。


4,5件回ってどうしたものかと旅行会社のロビーでぼんやりテレビを眺めていると、”カシミール情勢”についてのニュースをやっていた。インドのカシミール地方は長らく国境付近で隣国のパキスタンとの小競り合いが続いていて、そのころまた情勢が悪化ししていた。各国大使館からも、「カシミールに行っちゃならん!」とお達しがでているらしい。

ほー、そーか。と思いながら外に出るとある男に呼び止められた。

 

「チケットを探しているのか?」と聞かれるので、「ラダック行を探しているが、何とかなるか?」と尋ねると、「もちろん!オフコース!まあまあこっちへ!!」と小さな旅行会社へ案内された。彼は開口一番、「俺に提案がある」と言う。

「カシミールに行け!」

 

ちょっと待て。あそこは戦争中だろ。ニュースでもやっていたぞ。ほれ、地球の歩き方にもカシミールはデンジャラスだと書いてあるぞ。

 

彼はフン!と鼻を鳴らし、「カシミールは天国だ。パラダイスだ!」「ハンドレッド% セイフティーだ!!!」とまくしたてた。


僕は、”向こうから話しかけてくるインド人について行ってはならない”というインド旅行の鉄則をついつい忘れてしまい、

「カシミール経由でラダックに向かうのもいいか。。カシミールはデリーから見て北西のカラコルム山脈の麓の、かつてのイギリス人の避暑地だ。ラダックは大体北東のヒマラヤ山脈方面なので、”方向はどちらも”大雑把に北だ。。。"と酷く雑な計算を頭の中でやり、結局このインド人の話に乗ることにした。

 

彼は言う。「後のことはまかせておけ。それからカシミールにはお勧めのホテルがある。湖の上に浮かぶ船上ホテルでな。めっちゃいい場所だ。そのホテルの予約もとっちゃえ!」


僕はだんだん考えるのが面倒になって「わかった、わかった。そうしてくれ」と言ってしまった。

 

後でわかることだが、当時のカシミール情勢は最悪で”渡航自粛勧告”が出ており、旅行者は皆無だった。


だがカシミールはかつての避暑地(軽井沢の感じか。)であり観光業で生計をたてる人も多い。この小さな旅行会社のオーナーの家族が実は、船上ホテルを経営していて生活に困っており、デリーで旅行者を騙しカシミールという”死地”へ金蔓として送り込んでいたという訳だ。


そして僕はまんまと罠にはまり、この後、戦火の町へと向かうことになるのだった。

 


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